よく分からない絵を描いたら、よく分からないことになった
いろはすって何で無色透明なのに味がするんだろう、と不思議に思っていたら、いつのまにか日が暮れていた。
もも、みかん、なし、いちごミルクとか、色んな味のいろはすを飲んできたけれど、未だに透き通った透明な水になぜ味が付いているのか分からない。それに、液体に「いろ」がついていないのに「いろはす」という名前なのも謎だ。せめて「いろ」をつけてほしい。でも「いろ」をつけたら、それは「いろはす」じゃなくなる。いろはすのパラドックスだ。
こんなことを考えながら、いろはすの横に目を移すと、そこには6枚切の食パンがあった。そもそも食パンと言う名前、これは「主食用パン」の略語らしいが、逆に食用じゃないパンなど存在するのだろうか?食べれないパン?フライパン?謎謎?
僕の半径1メートル以内には、色んな不思議が潜んでいる。僕は考え過ぎてお腹が空いたから、食パンの袋から食パンを取り出した。紛れもない食パンだった。子どもの頃から食パンは食パンの形を変えることなく、ずっと食パンとして居てくれている。食パン、すごい。
ここでまた一つ、疑問が浮かび上がってきた。「この食パンの袋を留めているプラスチックで出来たこれ、何て言うんだっけ?」僕は、記憶の片隅にある引き出しを探し、すぐに答えに辿りついた。そうだ、バック・クロージャーだ。この何か特徴があるようで特徴がないこの留め具。デザイン、形、色、すべてにおいて満点だ。食パンをおいしく食べられるように、バック・クロージャーは、ちゃんと食パンを密封してくれている。まさに縁の下の力持ち、いや、もしかしたらコイツが主役説まである。
ここで、僕はふと、何かよくわからない衝動に駆られてこう思った。
「絵が描きたい」
そう、絵。鉛筆でデッサンとかじゃない。パソコンで絵を描きたい!
皆さんもこういう経験ないですか?なんか急にある特定の何かがしたくなること。急に柿ピーが食べたくなったり、ジグソーパズルがしたくなったり、GO!皆川のモノマネがしたくなったり、ありますよね?
早速僕は、パソコンに元から入っているフリーソフトであるペイントを立ち上げ、バック・クロージャーを机の上に置いて、マウスを小刻みに動かしながら絵を描き進めていく。おそらく人生でこんなにもバック・クロージャーをまじまじと見たことは一度もないだろう。もしかしたら、これが最初で最後のバック・クロージャーガン見だろう。そう思うと、とても光栄で輝かしい。おめでとう、自分。
歪な形をしたバック・クロージャーに虜になってはや30分。ようやく完成が見えてきた。あとは細かい修正をして…ついにバック・クロージャーが完成した。
それがこちら。
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我ながら上手くないですか!?
自画自賛党の人たちからも絶賛の嵐のこと間違いないでしょう。細かい凹凸の部分が一番苦労したけれど、一番苦労したのは、無意識に浮かび上がってくる「僕は今何をやっているんだろう?」という自問自答から一刻も早く逃れる方法を考えることだった。これでもやはり絵を描いている時間は無心になれるし、なにより楽しい。
バック・クロージャーを描いたことで、さらに僕の絵を描きたい欲が掻き立てられた。いつのまにか僕は、何か他にも絵を描きたい、そんな欲望にまみれていた。
絵が描ける対象となるアイテムは他にないか?そう思い、狭い部屋の中を歩きまわる。1周、2周、3周、何往復かするとあるものに目がとまった。そう、テレビのリモコンだ。
いや、でもちょ待てよ。心の中のキムタクが叫ぶ。このリモコン、めっちゃボタンあるし、さすがに全部描くのはアホなんじゃないか?そう思い、僕はどれかのボタンをピックアップして、それを描こうと思い立った。電源ボタン、決定ボタン、入力切換、早送り…リモコンをまじまじと見るとたくさんボタンがある。リモコンも近い将来、スマホみたいにタッチ操作できるんだろうか。こんなにボタンがあったら、どれを押したらよいのか分からなくなって、テレビを見る気が起きなくなるかもしれない。これがもしかしたら、若者のテレビ離れの根本にある問題なのではないか、とすら思ってきた。
リモコンを15秒くらい眺めた後、何をペイントしようか決まった。さあリモコンの中で栄えある僕に選ばれたボタンは一体誰なのか?
これはこの人だ…!
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音量ボタン!なぜ音量ボタンが選ばれたかって?それは誰もしらないし、理由なんてない。ちなみにペイントの候補に選ばれたのは「電源ボタン」と「決定ボタン」だ。なぜなら電源ボタンは、リモコンの代名詞ともいえるべきボタンで、このボタンをプッシュしなければ、まずテレビを起動することができないからだ。そして次の候補は「決定ボタン」。こちらのボタンも録画や場面切り替えなど、テレビの基本的な操作をする上で欠かせないボタンだ。じゃあ、なんでこの2代巨匠を抜いて「音量ボタン」を選んだかって?それは、愛だ。それ以上も以下もない。愛にできることはまだあった。
僕はもう完全にペイントに夢中になっていた。それは夏休みに虫かごと虫取り網を持って公園に行った時のように、食べ放題のバイキングでから揚げとポテトを大量に皿に乗せた時のように。
絵を描く妖怪と化した僕は、ついに財布の中をガサゴソと漁りだす。財布の中は色々なものが入っている。お金にカードにレシートに期限切れの割引券。今の生活はスマホと財布だけで十分生きていける。だから、もし財布を落としてしまったらと考えると、それはそれはもう激おこプンプン丸。部屋中を暴れまわって、ハンガーを頭にはめて、「あ~頭が回る~~」と言って、本当に頭が回っていないことを体で表現するだろう。僕だけにしか分からない苦しみと悲しみと罪悪感と容赦ない切迫感に打ちひしがれることになる。
そんなことを思いながら財布の中を見ていると、とあるアイテムにたどり着いた。おそらく皆さんも一度は見たこと、使ったことがあるだろう。持っていない人でも、名前は聞いたことがあるのではないだろうか。
そう、このカードだ。
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すごく目立つ色でTという文字がカードで表されているこのカード。名称は、見たまんまで「Tカードだ」。おそらくこのカードを見たことない人に「これはなんという名前のカードでしょう?」と問いかけたら、考える余地も与えないくらい条件反射的にパッと「Tカード!!」と答えるだろう。なぜならそれはすでに私たちのDNAにTカードの文字が刻み込まれているから。DNAの塩基配列であるA,G,T,CのTはTカードのTだったのだ。
チョコレートプラネットも瞬間的に反応するくらい有名なカードは、僕の心をいとも容易く盗んでいった。ちなみに僕はコンビニで買い物をするときに、店員さんに「Tカードはお持ちですか?」と聞かれたときは、Tカードを出すときのほうが多い。おそらく出す・出さないの割合は6:4くらいの気がします。皆さんは出しますか?出しませんか?
Tカードを模写し終えた僕は、まだまだ絵を描く欲望は枯れずに、むしろ若干疲れてきた身体が逆にエンジンをかけている。いわゆる、フローの状態に突入しつつあった。次で描くのは最後にしよう。そう思って僕は再び、ペイントに描くアイテムを探し出す。
そして僕は、ついに運命的な出会いをしてしまった。君が…まだいた….。あの時、救えなかった女王様が、長年の時を経て、目の前に現れたような。それは、インスタントのスープとかを収納する場所にいた。なんで今まで気づかなかったの?そう言われても仕方ないような、あの時、一生愛するって言ったじゃんって言われたときのような。これはもう壮大な人生のストーリー。ドラマチックでロマンチックでセンセーショナルな物語。
そう、君の名は。
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ブレンディースティック。なんて美しんだソナタは。冬のソナタって、主役はもしかしたらペ・ヨンジュンじゃなくて、ブレンディースティックのことだったのかもね。ネスカフェアンバサダーやバリスタも嫉妬するくらいアナタは美しい。
もし「The Bkendy stick」ってロックバンドがいたら、ピアノやバイオリンを取り入れた、すごくオシャレで落ち着いた系のサウンドを鳴らすだろう。一部のファンからは「ブレスティ」っという愛称で親しまれているらしい。雰囲気の良い喫茶店やバーなどでは、「私最近、The Bkendy stickってバンドにハマってるんだ~」「えーそうなの!気になる!!どんなバンドなの?」「ブレスティはねー、聴いててすごく心地よくて、何よりボーカルの人が超イケメンなの~!!」っていう会話が聞こえてくるだろう。
ワンマンライブでは、会場内にコーヒーの香りを漂わせなど、お客さんを楽しませるような工夫が見られるらしい。今一番勢いがあるロックバンドだ。
3時間くらいブルーライトを浴びながら、絵を描き終わって僕は、ムスカ大佐ほどではないが、目がめちゃくちゃ疲れきっていた。そして僕はガムのボトルを開け、ガムを噛んだ。
そして、ガムを噛みながら、机の上のいろはすを眺めて、「なんでいろはすって「いろ」がないのに「いろはす」って名前なんだろう?」という疑問を浮かべていた。
あれ、これはデジャヴ…..??
ファンタスティック~~~~~!!!!!!