受け取った色、選んだ色。
―——これは生まれる前の出来事——―
胎盤にて。
僕は死んだ。何回目かの輪廻転生。前世の記憶はもうないけど、ここにいることが初めてじゃないことはなんとなく分かる。死んだときに記憶が完全に抹消されなかったみたいだ。たまに外の世界から、何か言葉が聞こえる。言葉は完全に理解は出来ないけれど、聞こえてくる度に早くそっちの世界に行きたいと思う気持ちが強くなる。その前にまた、ヤツが来る。
——「君に色をあげる。未来を担う君に色をあげる。何色が良い?」
僕は答えない。分からなかったから。
——「分からないなら、とりあえず赤色をあげる。未来で活用してね。」
そう言って去って行った。僕は赤色を胸に仕舞い込み、胎盤生活を謳歌した。
数日後。
——「おはよう。元気かい?ずいぶん赤い目をしてるけど大丈夫?」
僕は俯いたまま、何も言わなかった。
——「赤色だけじゃ満足できないかなって思って、また来たよ。次は何色が欲しい?」
僕は咄嗟に言葉が出てこなかった。
——「じゃあ今度は、橙色ね。はい、あげる。」
僕はまた、不思議な気持ちを感じながら、胸に色を仕舞い込んだ。
来る日も来る日も、僕は誰かに色を与えられ続けた。そんな日々を過ごしながら、僕はどこからか少しだけ強くなっていた気がした。
そしてついに時は来た。
僕が生まれる1日前。また知らない誰かがやって来た。
——「君に最後の色をあげる。躊躇わず受け取ってね。」
そう言われて僕は紫色を受け取った。
そして誰かさんはこう続けた。
——「君が今まで受け取ってきた色、ちゃんとまだ持ってる?くれぐれも混ぜないでね。絶対だよ。」
僕は思った。
——「もっと早く言ってくれ...。」
胸の中の色が少し滲んで、黒くなっていた気がした。
でも何故「混ぜるな」と警告されたのか僕には分からなかった。
——「そろそろ行くね。混ぜるな危険、没個性。」
知らない誰かさんは、こう言ってその場を後にした。
僕は、最初から最後まで不思議な人だなぁと思いながら、生まれる準備をした。
そして、僕はこの世に生まれた。
見たこともない景色に魅了され、名前も知らない人たちもたくさんいた。五感が急に振動し始めた。
すると僕は、あの不思議な出来事を思い出し、咄嗟に心ポケットを見た。
それは、無色透明に輝いていた。
おわり。